人文学部 日本文化学科 ニュース

授業紹介アーカイブ

日本文化学科のキャリアスタディプログラムでは、1年生後期の「キャリアスタディプログラムⅠ」から、2年生後期の「キャリアスタディプログラムⅢ」まで、継続して新聞記事を題材にした時事ワークシートに取り組んでいます。新聞記事を読み解くことで読解力・思考力を培うとともに、社会に目を向け、様々な社会問題について考えることを通して、より広い視野を持てるようになることを目標としています。 今学期の「キャリアスタディプログラムⅢ」の最初には、「採用面接 相手はAI」(2019.7.5 付 朝日新聞夕刊)を読み、意見交換をしました。

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採用面接へのAIの活用を支持する側からは、「評価基準が一定であれば、活用するのもよいと考える。なぜなら人が行うと、好みや評価基準が異なるなど就活者にとってのデメリットがあるが、AIには一定の評価ができるという強みがある」、「先輩から東京や大阪などの都心部まで面接に行かないといけない会社は、交通費などの費用がたくさんかかるので諦めたと聞いていたので、AIを導入することで少しでも負担が減り、自分のやりたい職業につくことができる可能性が大きくなる」、「会社側の選考にかける労力を減らすことができ、志望する側も時間と費用を抑えることができる」等の意見が出されました。

これに対して、AIの採用面接導入に疑問を感じるという人たちからは、「確かに面接の手間を省くのに、AIを利用するのは便利だと思うが、AIが面接する相手の思想や本性までは見抜けないのではないか、面接を受ける人は、その会社の内定がほしくて面接を受けているのだから、上辺を取り繕って、自分を「企業が採用したくなる人間」に変えているのは当然で、相手が自社で働く気があるのか、人間の目で確かめたほうがよい」、「どのようなことで数値化されているのかが気になる、採用活動をAIに任せるのは、カラオケの採点みたいになるのではないか。カラオケの採点は、決められたとおりに歌えば100点になるが、少し個性が強い歌い方だと減点になる。人の性格まで数値化できないのではないか」といった声が出されました。

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また、AI時代に気をつけたいこと、大切にしたいこと、そこでの自分の生き方について、次のような意見が出されました。

○ 他の誰にでもできる仕事だけでなく、自分にしかできない仕事を見つけなくてはならないと考える。そのために、自分の強みとは何なのかを把握する必要がある。得意なこと、興味関心のあることに積極的に取り組んで、様々な経験を積むべきだ。今しかできない活動に挑戦してみたいと思う。

○ AIが身近な生活になると、すべての動作や日常生活が定型的になってしまうような気がするので、自分の「個性」を見失わないようにしたい、AIを超えることはできないと思うけれど、すべてをAIに頼っていくような生活はしたくない。         

○ AI時代の中で気をつけたいのは、個人情報の流出だ。自分の個人情報をAIが管理する時代になると、そこで情報が流出したり、事件に巻き込まれたりするかもしれないので、知識をしっかり身につけたい。

○ 正しい情報の読み取り-コンピュータの中で、正しい情報もあれば誤った情報もある。自分の判断で正しい情報を得る必要があるが、どのように判断したらよいのか分からない。読み取りの力が必要になってくると思う。

○ 今使われているLINE NEWSでも、よく見ている記事の関連のものがよく表示されている。この出てきている記事、自分が興味のあるものだけでなく、いろいろな社会や国際など幅広い記事を読むことに気をつけたい。

○ AI時代の中で、私はAIが提示する情報や数値を自身の知識の拘束にしないようにする、また、絶対化しないようにするということに、気をつけていきたい。AIの言うことが正しいという概念が、現代のAI支配に繋がっているように私は感じる。

私たちの仕事内容や就職に大きな影響を与え、生活の中にもどんどん入ってきつつあるAI、そんなAIにどう向き合うか。

新聞記事を起点に、様々な視座から、AI時代の私たちのあり方について考えることができたように思います。

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日本文化学科の学びでは、地域の伝統文化に目を向け、その価値と、伝統文化をとりまく状況、次代に伝えていくために何ができるかを考えています。 人文学入門の授業では、神楽に着目し、国際英語学科のみなさんと共に考え、提言をレポートにまとめました。 その一端にふれながら、私たちの大切な地域文化をいかに守り伝えていくかについて考えたいと思います。

愛媛から広島に来て、初めて神楽を見たというAさんは、次のように書いています。

第一部は舞台から遠い席に座り、全体の動きを見た。華やかに響く太鼓と笛の音。軽やかで美しい舞い。迫力があり、夢中になって、食い入るように見た。その後の第二部は最前列で神楽を見た。演者の息づかいが聞こえてきそうなほど舞台と距離が近く、緊迫感と熱気を感じた、気持ちが高ぶり、涙がこぼれた。広島に来て本当によかった。何回でも見に行きたい、と思わせてくれる公演で、私はこの日、神楽が好きになった。周りには、目を輝かせながら神楽を見るおばあさん。太鼓の動きに合わせて嬉しそうに手を叩くおじいさん。顔を見合わせ、微笑み合う親子。ああ、神楽にはこんなに大きな力があるのだと実感し、次代に繋げていかなくてはもったいないと強く思った。

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こう語るAさんは、「様々な人に神楽を見てもらうことが重要」とし、「神楽を知っている私たちが、多くの人に神楽の魅力を語」り、SNSでの情報発信をしていくことも効果的だとしています。さらに「商店街や駅の床絵、壁絵を神楽の絵にすると観光客にアピールできる」と提案しています。

学校での文化教育の大切さについて述べるBさんは、授業で神楽を扱うこと、クラブやサークルを開くこと、地域の文化センターと連携しての見学会や専門家の話を聴く会の開催を提言し、その上で次のように言います。

いちばん大事なのは、人に伝える前に、私たち一人ひとりが「神楽」を愛することだ。なぜなら、人間は自分の好きな物事に対して十分な関心を持ち、それがなくならないように守るからだ。自発的に何かのイベントでチラシや資料を配付したりして積極的に活動する。自分が十分理解した上で、友達を誘って一緒に「神楽」を見たりして共に楽しんでいく。こうすれば、自分の周りに同じ「神楽」のファンがどんどん広がっていくだろう。

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また、Cさんは、「神楽を伝承していくためには、本来の形にとらわれすぎないことが重要」とし、次のように書いています。

例えば、和太鼓や三味線は現在、ロックと融合させた演奏も行われている。実際に注目を集めて熱い盛り上がりを見せている。神楽にも、若い世代が興味を持つような魅せ方をしたり、機会をつくったりする必要がある。私は、エンターテインメントと融合させることを提案する。衣装や音楽をより色彩鮮やかで華やかにしたり、新しい演目を作ったりなどがある。

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日本文化学科には、神楽団に所属して活動している人たちもいます。Dさんは、若手の育成の大切さを述べ、機会を与えて「若手に挑戦させる」ことと共に「いろいろな角度から撮ったビデオを残すこと」の必要性について次のように書いています。

今まで舞っていた人の引退や団員不足で舞えなくなった演目を、口伝えだけでなく形に残すことが大切だと考えたからだ。一度やらなくなった演目を復活させることは難しい。ビデオに残すことで、復活させようとしたときに次の世代の人が見ることができる。

これは大学も積極的に関わるべきことだと感じています。Dさんは提言の結びに「若手の一員として、しっかりベテランの人に教えてもらえることを吸収したいと思う」と結んでいます。

同じく神楽団に所属して活動を続けているEさんは、女性の参画を次のように訴えています。

神楽は、女性でも舞えるようにすべきだ。私は、現在、神楽に携わっている。舞台上で横笛を吹いている。申し込んだ際に、「女だから」という理由で舞うのを断られた。人手不足が問題となっている昨今、性別に拘っている場合ではない。伝承を受け継ぐには次代に適合していく必要があるはずだ。

その上でEさんも、「私は次代へと受け継がれるように、自分にできることを一つずつ実行・提案していこうと思う」と力強く結んでいます。

広島の伝統文化への若い世代の思いを受け止め、日本文化学科でも、今、できることに一つ一つ丁寧に取り組んでいきたいと考えています。

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1年生の必修科目「日本文学講読Ⅱ」では、文豪・夏目漱石の足跡を辿りながら、作品世界を受講生のみなさんとともに読み解いています。

授業後の感想を拾いながら、日本文化学科の学びの様子をお伝えします。

夏目漱石の作品は難しいものが多いという先入観を持って読んでいなかったが、どれも奥が深いことがわかった。もう1回「こころ」を読んでみようと思う。彼が何を伝えたかったのかを考えながらこれから読んでいきたい。図書館にも行って様々な漱石作品を読もうと思った。これからの講義が楽しみだ。

広島女学院大学の図書館には、28万冊の蔵書があり、とりわけ文学書や文学研究書は充実しています。その中でも、漱石関連の書籍は、全国でも有数の蔵書数です。

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この環境をぜひ生かしてください。 図書館で過ごすぜいたくな時間は、大学時代のかけがえのない思い出になることでしょう。

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高校までに習った文学作品は、常に正しい答えが用意されていたけれど、大学では、自分の読み方を大事にすると知った。来週からの授業が楽しみだ。自分なりの考えを持って参加できるようにしたい。漱石以外にも、鷗外や芥川なども読んでみたい。

私は、高校のときに「夢十夜」を勉強したのだが、そのときは、私の意見と先生の意見の二択しかなく、固定された視野で作品にふれた。だが、日本文学購読のこの授業で、私と同世代の皆の意見や評論家の方の意見を聞いて、作品の捉え方が増えたなと感じた。

私は高校の授業で「夢十夜」の第一夜を学んで、そのときは最後に女は百合となって男に会いに来るし、ハッピーエンドで終わると思っていたけれど、他の人や研究者の意見を聞いて、そうとは言い切れないと思った。特に柄谷行人さんの「自分がそのとき死んでいる」という意見に衝撃を受けた。いろいろな人の意見を知ることで視野が広がり、違う価値観から見られるため、作品を読むときの深みが増したと思う。

国語の試験などは仕方がないことだが、一通りの解釈しか許されず、先生や模試の解説に納得できないことがあった。それに比べて、漱石の小説は、曖昧な分、解釈の余地があり、多くの研究者によって解釈本とも言える本が出版されているのも、現代の小説とは違うところだと思った。

優れた文学作品は、読み手の論理を揺さぶり、感性に訴えかけながら、開かれた多様な読みに誘ってくれます。友人と議論し、研究者の分析にふれ、「こんな読み方もあるのか」と感嘆し、さらに自らの読みを深めていく。ここに大学での学びの醍醐味があります。また、自分のものの見・考え方の傾向も、このような学びの中で捉えることができます。

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○漱石が正岡子規と寄席通いで意気投合し、俳句の添削までしてもらうような仲だとは知りませんでした。今日は作家以前の漱石を知るということで、元々養子生活だったことは知っていましたが、作風に影響したであろう漱石の人生や時代背景を知ることができ、とても勉強になりました。今日、また漱石の著書を読む観点が変わったなと思います。  

作家の人生にふれ、時代や社会の状況を調べる中で、これまで見えなかったものが見え、 漱石像が更新されていきます。作家論に学ぶこと、文学史的視点を持つことで、より深い探究が可能になります。授業では、作品と作家の実人生を直線で結ぶことを厳しく戒めつつも、近代的自我の在り方について深く掘り下げ、東と西のはざまで、日本のこれからと近代文明の行方を見つめ続けた夏目漱石という作家の生を、できるだけ丁寧に辿ってきたいと思っています。

○今回の授業では、「異化」という言葉がいちばん印象的でした。普段何気なく見ているものを異化する文学は、変哲のない毎日をもっと別の生き方ができるのではないかと考えさせるきっかけになり、豊かな人生にするのではないかと思いました。

○普段何気なく行っていることを異化するのが文学だと聞いて、文学の存在意味みたいなものが見えたような気がしました。

この授業では、ここで取り上げた「異化」をはじめ、様々な文学理論やその理論を支える用語についてもふれ、それを漱石の作品にあてはめながら考えていきます。文学をより深く読むための方法を獲得しつつ、「文学とは何か」という根源的な問いに対する一人ひとりの答えがおぼろげにでも見えてくる、そんな時間にできればと考えています。

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